避難所と避難場所の違い

地震や洪水などの災害が発生した際、「避難所」と「避難場所」という言葉を耳にすることが多いですが、この二つは厳密には異なる意味を持っています。正しくは「指定避難所」と「指定緊急避難場所」に分類され、それぞれ役割や目的が異なります。
いざというときに自分や家族を守るためには、それぞれの違いを正しく理解しておくことが大切です。本記事では、それぞれの定義や役割、関連制度について詳しく解説していきます。
指定避難所
「指定避難所」とは、災害対策基本法施行令第20条の6によって以下の条件を満たし、かつ市町村が正式に指定した避難場所のことを指します。
第二十条の六 法第四十九条の七第一項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 避難のための立退きを行つた居住者等又は被災者(次号及び次条において「被災者等」という。)を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること。
二 速やかに、被災者等を受け入れ、又は生活関連物資を被災者等に配布することが可能な構造又は設備を有するものであること。
三 想定される災害による影響が比較的少ない場所にあるものであること。
四 車両その他の運搬手段による輸送が比較的容易な場所にあるものであること。
五 主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において「要配慮者」という。)を滞在させることが想定されるものにあつては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること。
この指定避難所は、災害の発生後に避難生活を送るための場所であり、被災者が一定期間安全に過ごすための施設です。体育館や公民館、学校の校舎などが該当することが多く、食料・水・毛布・トイレなどの最低限の生活支援が受けられるようになっています。
法令で定める4つの条件(災害時に建物の安全性が確保されていること、十分な収容人数、必要な設備・備蓄があること、避難に支障がない場所であること)を満たす必要があり、自治体が定期的に見直し・整備を行っています。
指定避難所と福祉避難所
指定避難所の中には、「福祉避難所」という特別な役割を持つ施設があります。これは高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児、持病のある方など、一般の避難生活では支障が出る可能性がある人々のために開設されるものです。
内閣府令により、以下のような基準を満たす必要があります。
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バリアフリー設計
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医療・介護支援の体制
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プライバシーの確保
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専門職の配置(介護福祉士、看護師など)
なお、対象者の家族も同伴が可能とされています。福祉避難所は災害発生後、必要に応じて開設されることが多いため、すぐに入れるとは限らず、まずは一般の指定避難所へ避難した上で移動するという流れが基本です。
指定緊急避難場所
「指定緊急避難場所」は、災害発生直後の命を守るために一時的に避難する場所です。主に以下の3種類に分類されます。
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一時避難場所:避難の集合場所として使われる公園や広場など。
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広域避難場所:大規模火災などから離れて避難するための場所。学校の校庭や大きな公園などが指定されます。
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災害種別指定場所:地震、津波、洪水、火山噴火など、災害の種類ごとに安全性を考慮して指定されている。
この場所は、必ずしも生活環境が整っているわけではなく、仮に屋外であってもとにかく命を守ることが最優先とされる緊急時の避難拠点です。災害の種類や被害の広がりに応じて、自治体ごとに指定されている場所が異なるため、事前に地域のハザードマップで確認しておくことが重要です。
過去事例:指定緊急避難場所ではない場所に避難したことによって被害が出たケース
東日本大震災や熊本地震など、過去の大規模災害では、住民が誤って指定されていない場所へ避難したことで被害に遭ったケースも報告されています。
たとえば、津波避難の際に海に近い学校や公園に避難してしまい、津波の直撃を受けて命を落としたという痛ましい事例がありました。こうしたケースの背景には、「避難所」と「避難場所」の違いを知らなかったこと、ハザードマップを確認していなかったことが挙げられます。
正しい避難行動をとるには、平時からの情報確認と訓練が不可欠です。
避難所開設情報
災害時には、すべての指定避難所が自動的に開設されるわけではありません。開設されるかどうかは、災害の規模や被害状況、地域の安全状況によって判断されます。
避難所が開設されたかどうかの情報は、以下の手段で確認できます。
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自治体の公式サイトやX(旧Twitter)
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災害時専用のLINEアカウント
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緊急速報メール(エリアメール)
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防災行政無線
高齢者世帯など、情報入手が難しい家庭では、近隣の住民や家族が積極的に声をかけ合うことが重要です。
災害情報共有システム
近年では、災害時の情報共有を効率化するため、以下のようなシステムが導入されています。
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Lアラート(災害情報共有システム):地方自治体、放送局、インターネット企業が連携し、避難勧告・避難所情報・ライフライン情報などを一元的に配信する仕組み。
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Yahoo!防災速報アプリ:自治体発信の避難情報、気象警報、地震速報などをスマホでリアルタイム受信。
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ハザードマップポータルサイト(国土地理院):自宅周辺の洪水・土砂災害・津波リスクを事前に確認可能。
これらのツールを活用し、備えることが防災リテラシーの一環となっています。
まとめ
「避難所」と「避難場所」の違いを理解することは、命を守るための第一歩です。
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指定緊急避難場所:津波、洪水等による危険が切迫した状況において、命を守るために災害発生時にすぐ避難する場所
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指定避難所:避難生活を送るための場所(福祉避難所も含む)
それぞれの機能と役割を正しく把握し、自分の住む地域の指定場所を平時から確認しておくことが重要です。災害はいつ起こるかわかりません。日頃の備えと正しい知識で、大切な命を守りましょう。
参考文献
- 内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」 https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_hukushi_guideline.pdf
- 国土地理院「ハザードマップポータルサイト」
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/hinanbasho.html - 内閣府「火山災害への対応」
https://www.bousai.go.jp/kazan/expert/pdf/160206katsudo.pdf - 防災白書(平成30年版)
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h30/honbun/1b_1s_02_10.html